ストーリー

[ストーリー第3話] 異世界人は傘が欲しい (3)

コロネ
コロネ
即答していたよ。
「会いたい!」って。
10回くらい言った。

クオン
クオン
も、もちろん私も即答しましたよ!

心の涙が止まらない。
こんなうれしいことを言ってくれるなんて、2人とも本当にいい子に育った。

クオン
クオン
私たちがそう答えると、賢者様はおっしゃいました。

イリス
イリス
じゃあ、特別に私の転移魔法で忠矢のところに送ってあげる。そこでほとぼりが冷めるのを待つといいわ。リィンの状況が落ち着いたらむかえにいってあげる。
「善は急げ」って、忠矢の世界のことわざでは言うらしいわね。
心が決まったら、ためらわずすぐ実行してしまうのがいいわ。
急いで次元転移の準備をしましょう。

手際がよすぎる。その提案はほぼ間違いなく何かのワナだろう。

人が追い詰められて思考が停止しているタイミングを見計らって、断りにくい魅力的な提案をする。

そして相手が受け入れたら、考え直させる時間を与えず一気に事を進める。

賢者イリスのやり口は実に狡猾だ。詐欺師のやり口といっていい。

クオン
クオン
私たちにもちろん否やはありません。
すぐに次元転移の準備に取りかかりました。
準備といっても、睡眠魔法をかけられて寝るだけでしたが。
賢者さまによると、次元転移を安全に成功させるには丸2日ほど睡眠状態にして精神と肉体を落ち着かせる必要があるそうです。

クオン
クオン
だから、こちらの世界に来ていきなり寝てたのも、お腹がペコペコだったのも仕方ないことなんです。
ですよね、コロネ。

コロネ
コロネ
え?
そうだったっけ?

クオン
クオン
そうなんです!

コロネ
コロネ
腹が減ってたのは確かだったけどな!

クオンがテーブルに身を乗り出して強く主張してくる。

乙女として譲れない一線があるらしい。

忠矢
忠矢

いや、だからそれは気にしてないって。

クオン
クオン
私は気にしています……。

クオン
クオン
コホン……。
睡眠魔法を私たちにかける前に、賢者様はこうおっしゃいました。

イリス
イリス
目が覚めた時は、忠矢のすぐそばよ。

クオン
クオン
そして、次元転移魔法が発動しました。
眠っていたのでどれくらいの時間がかかったかわかりませんが、気付いた時はこの世界にいました。

コロネ
コロネ
目が覚めたら本当に忠矢のすぐそばだったな!

クオン
クオン
いくらなんでもそばすぎます……。

あれは完璧に見計らった場所とタイミングだったと思う。

まるでイリスが自分の転移魔法の完成度を見せつけてきているような。

それにしても、2人が転移してきたのがオレが風呂に入っているときじゃなくてよかった。

クオン
クオン
これが私たちが忠矢様の元に来た経緯です。

クオン
クオン
一方的に押しかけた上に、かくまって欲しいだなんてお願いをして、本当に申し訳ないと思っています……。

忠矢
忠矢
事情はよく飲み込めたよ。

忠矢
忠矢
ただ……。

最初に「かくまって」と2人に言われたときに、すでにオレの心は決まっていた。

決まっていたのだが、今後2人の日本での生活をどうするかとか収入は足りるかとか、そういう諸問題がオレの頭をよぎっていた。

「イエス」と即答できず、一瞬躊躇するところがあった。

コロネ
コロネ
忠矢!
もちろんオレたちをかくまってくれるよな!?
なあ!

その一瞬の躊躇をコロネは見逃さなかった。

いきなり、コロネがテーブルを飛び越えて抱きついてきた。

忠矢
忠矢
どわっ!!

コロネに抱きつかれたオレは、勢い余って椅子ごとひっくり返った。

クオン
クオン
忠矢様!
もうどこにも行くところがないのです!
ご迷惑は重々承知です!
どうか私たちをかくまってください!

忠矢
忠矢
ぐえぇっ。

カエルが潰れたような声が出た。

コロネ一人でも十分オレを圧殺できる力がある。それが今度は2人分だ。

コロネ
コロネ
ちゅうやああああ!!!!

クオン
クオン
忠矢様あああああ!!!!

息ができない。声すら出ない。

コロネ
コロネ
お前しかいないんだあああああ!!!!

クオン
クオン
忠矢様あああああ!!!!

ああ……、意識が遠のいていく。

目の前が、真っ暗だ。

腕だの肋骨だのに鈍い痛みを感じる。それで目が覚めた。

どうやらオレはまた気絶して、ベッドの上に寝かされていたようだ。

ゆっくり目を開けると、コロネとクオンの顔が飛び込んできた。

忠矢
忠矢
お前ら……。
いい加減にしろよ……。

クオン
クオン
なんとお詫びを申し上げたらよいのか……。

コロネ
コロネ
忠矢、すまん……。

2人ともうなだれている。
さすがに今度は真剣に反省しているように見える。

かわいそうなヤツらなんだよな。親のいないコロネに、親にずっと放っておかれたクオン。2人とも明るく気丈に振る舞っているが、心の深奥はどうなっているかわからない。

性格も考え方も正反対の2人は、きっとお互い欠けているものを補い合いながら、支え合ってこれまで一緒に生きてきたんだろう。

2人の肉体はオレなんかよりはるかに頑丈だが、精神はきっともろい。だれかが守ってあげなければ、いつか壊れてしまうかもしれない。

オレがコイツらをかくまって、これから日本で暮らしていくとなると実にいろいろな問題がある。

問題はあるが、それを考えるのは後回しだ。

今はコロネとクオンに雨宿りのできる場所を作ってあげたい。

そう思った。

オレはベッドからゆっくり身体を起こすと言った。

忠矢
忠矢
かくまってやる。

忠矢
忠矢
好きなだけ、ここにいたらいいさ。

コロネ
コロネ
ちゅうやああああ!!!!

クオン
クオン
忠矢様あああああ!!!!

忠矢
忠矢
ストップ!!!
ストーーーップ!!!!!!

2人がまた抱きついてこようとしたので慌ててベッドから跳ね起きつつ、手で制した。

忠矢
忠矢
お前ら、ぜんぜん反省してねえじゃねえか!!

こうして、コロネとクオンが我が家の新しい住人となった。