ストーリー

[ストーリー第2話] 勇者の記憶 (2)

この後も紆余曲折はあったが、オレはとにかく勇者として魔王討伐の旅にでた。

ひたすら苦心惨憺の日々。死にかけた回数は数えきれない。

しかし、それを今思い出すのはやめよう。

5年かけてようやく魔王を倒したオレは賢者イリスに会いにいった。次元転移魔法は完成していて、イリスは約束を果たしてはくれた。

オレは日本に無事、帰還した。

今朝やってきたコロネとクオンはその旅のさなかに出会った子供たちだ。
当然今みたいな花も恥じらう乙女ではなく、当時はちんちくりんのガキだった。

コロネとクオンの姿が思い浮かんでくる。

コロネと出会ったのは、オレがリィンに来て3年目のことだった。

フルネームは、コロネ・クニサダ・マリーモ。

戦乱で親を失ったストリートチルドレンだった。当時3、4歳くらいだったと思うが、孤児なので正確な年齢はわからない。

コロネは、同じような境遇の子供たちを率いて暴れまわっていた。浮浪児たちの間でも最年少に近かったと思うが、めっぽうケンカが強く親分肌で、堂々とリーダーの座に君臨していた。そして、組織的な窃盗や略奪に手を染めていた。もっとも所詮は子供のやることで、商店の軒先からリンゴをちょろまかしたり、裕福な家に押し入って少々の金と食べ物をせびるとかその程度ではあったが。

しかし、コロネ率いる少年少女窃盗団の活動の規模が大きくなってくると、子供のいたずらと笑って済ませることもできなくなった。窃盗団による被害が日に日に大きくなり、リィンの王宮に市民からの苦情が殺到した。

王宮でも対処に困り、オレに討伐の依頼をしてきた。

オレにしてみれば、勇者の本業ではないしなくてもいい面倒ごとを押し付けられたかっこうだ。

オレと、オレが率いるパーティーのメンバーたちは、やむなくコロネ一味の討伐に向かった。

子供らしくすばしっこく集合離散を繰り返すコロネ一味のゲリラ戦術にだいぶ苦しめられたが、なんとか追い詰めて捕まえた。なお、コロネは7回ほど逃亡し、8回目にようやく観念してオレに全面降伏した。
南蛮王孟獲か、お前は

リィン王が討伐成功の褒美をくれるというので、これ幸いとコロネをはじめ、浮浪児たちを責任を持って王宮で養育するよう押し付けた。
面倒ごとを押し付け返したかっこうだ。

あの時の王様の苦虫を噛み潰したような顔は傑作だった。

その後もコロネとはちょくちょく顔を合わせたが、妙にオレになついた。

「忠矢から受けた恩と絆を忘れないため」といって、ミドルネームにオレの苗字である「クニサダ」を入れ、「コロネ・クニサダ・マリーモ」と名乗った。

コロネにはちょっと過剰に義理固いところがある。

コロネはしばらく王宮で雑用をしながら暮らしていた。クオンともこの時期に知り合ったはずだ。その後、シーフギルドの親方に見込まれ、本人の希望もあってシーフ見習いとして王宮の外で暮らし始めた。
これは、オレが魔王討伐を終え、日本に帰る直前のことだ。

クオンと出会ったのはオレがリィンに来て2年目のことだった。オレはコロネより先にクオンと知り合っていたことになる。

フルネームは、クオン・アル・ティエッロ。

当時まだ6歳だった。

クオンはリィン王国に仕える騎士デル・アル・ティエッロと僧侶クリム・クースの娘。

この騎士と僧侶の夫婦が変わり者で、三度の飯より冒険の旅が大好き。幼い娘を領地であるアルの村にほったからしにして、夫婦揃ってオレのパーティーに参加していた。

デルもクリムも冒険者としての腕は超一流で、オレは何度も危機から救われた。人間的にも爽やかで楽しいヤツらだった。

しかし、一人放っておかれた娘のクオンはたまったものではない。騎士の仕事には領地の支配・管理も含まれる。その仕事が全部幼いクオンに降りかかってきた。信頼できる執事でもいればよかったが、貧乏騎士ゆえにそんな便利な存在はいない。

結局クオンが領主としての仕事を全部取り仕切る羽目になった。クオンは幼い頃から頭が良くてしっかりしていたが、それでも6歳、7歳の子がやる仕事ではないだろう。

クオンがあまりに不憫なので、オレはわざとアルの村に立ち寄るような旅の行路を設定するようにしていた。両親を引っ張り回してるのはオレだという罪悪感があったせいもある。

とにかく、無理矢理アルの村に立ち寄るようにしないと、夫婦が娘に顔を合わせる機会がまるでなかった。

デル、クリム夫妻は筆不精でもあった。クオンからしてみたら、両親と音信不通で生きているか死んでいるかもわからないという状態だ。

仕方なく、オレは旅先でよくクオンに手紙を書いて送ってやっていた。

両親は無事で元気なこと。
冒険の旅のできごと。
嬉しかったこと、悲しかったこと。
オレが生まれた国、日本のこと。
日本に興味を持ったクオンは、日本にぜひ行ってみたいとよく言っていた

クオンは仕事でよく王宮に出入りしていたから、そこでコロネと知り合った。性格は正反対な2人であるが、不思議とすぐ仲良くなったようだった。

昔の印象では、クオンは頭がよくしっかりしているが引っ込み思案で神経質なところが強かった。子供らしい感情表現にも乏しかった。

久しぶりに会った今朝の印象はかなり違っていた。いきなり人前で取っ組み合いのケンカをするなんて、昔のクオンからはおよそ想像ができない姿だ。おおらかで表情が豊かになったような気がする。コロネと出会って少し変わったのかもしれない。
であれば、それはいい変化だと思う。

そういうあまり幸せではない幼少期を送った2人の少女が今、成長して目の前にいる。

えてして親の愛に飢えた子供は道を踏み外しがちであるが、朝の姿を見る限り、悪の道に進んでいたりはしていないようでホッとした。

いや、そう判断するのはまだ早い。闇落ちしている可能性もある。

いきなり、「人間どもを滅ぼしましょう」と持ちかけてくる可能性も皆無ではない。

たとえそういう話でも、とりあえず相談には乗ってあげようと思う。

さて、昔を思い出すのはこれくらいにしよう。
今はコロネとクオン、2人の話を聞かなくては。