ストーリー

[ストーリー第1話] 異世界からの訪問者 (2)

どうやら少しの時間、オレは本当に気を失っていたらしい。

気がつくと、オレはベッドの上にあおむけに寝っ転がっていた。上から鎧の少女が申し訳なさそうな表情をしてオレの顔をのぞきこんでいる。

鎧の方も起きてきたようだ。あれだけの物音がすれば、そりゃ目を覚ますだろう。

オレはゆっくりと身体を起こした。

半裸の少女は床にあぐらをかいてバツの悪そうな顔をしている。
かと思うと、両手で頭をおさえてうめきだした。

コロネ
コロネ
くううううううう…………。

こころなしか頭の一部が膨らんでいる気がする。恐らく鎧の少女に頭を殴られてオレに抱きつくのを止められたのだろう。

コロネ
コロネ
あ、起きた。

クオン
クオン
ああ、よかった。お気づきになられたようですね。
ご気分はいかがですか?

忠矢
忠矢
大丈夫、だと思う。

クオン
クオン
先ほどはコロネが大変失礼なことをしました。

クオン
クオン
もっとも、勝手にお部屋に上がり、ベッドで熟睡していた私が言えた筋でもでもないのですが…。

鎧の少女が心底申し訳なさそうな表情で謝罪してくる。

顔をまじまじと見てしまったが、これはまた正統派の美人だ。端正でキリッとしまった顔からは意志の強さが感じられる。しかし決して冷たい性格というわけでもなさそうで、目元には柔らかな優しさをたたえている。さらさら流れるロングヘアーが美しい。

忠矢
忠矢
キミたちは一体……?

忠矢
忠矢
ああ、クソ。
状況がのみこめない。いろいろ聞きたいことがありすぎる……。

わかっていることは、2人の美少女はとにかくオレが誰だか知っている。

そして、オレに何か要件がある。

だからここにきた。

そこまでだ。

とりあえず、昨日の晩に酔っ払ったオレが連れ込んだというわけでもないようだ。犯罪者になることだけは免れたのだろう。それだけでもホッとする。

コロネ
コロネ
クオン、覚えとけよ!

コロネ
コロネ
くそッ、思いっきり頭殴りやがって…。
いいじゃんかよ、あれくらい!
せっかく10年ぶりに忠矢に再会できたってのに…。

クオン
クオン
それくらいしないと止まらないだろう、お前は!

2人の美少女が脇腹を小突きあっている。
ガスッ、ドスッ、という 鈍い音が聞こえる。

人情に疎いオレでもすぐわかる。典型的な「ケンカするほど仲がいい」だ、この2人は。
ケンカする姿すら、うるわしい。

2人のやり取りから察するに、どうやらこの美少女たちの名前は、半裸の方がコロネ、鎧の方がクオンというらしい。

コロネとクオン。

その名前には心当たりがあった。

10年前、オレが日本に戻ってきたあの日から、生きていくことに精一杯で忘れていた記憶。

遠い世界に置いてきた記憶。

それが少しずつよみがえってきた。

この2人は、オレを知っている。
オレは、この2人を知っている。

コロネ
コロネ
オレにも一発、殴らせろ!

クオン
クオン
お前が悪いんだろうが!
やめんか、バカ!

オレが感傷にひたりながら記憶の糸を手繰っていると、美少女2人の喧嘩がいつの間にか取っ組み合いにエスカレートしていた。

どったんばったん大騒ぎ、である。
2人はとっても短気で元気なフレンズなんだね。

とか言ってる場合じゃない。

なにをやってるんだ、コイツらは。
人の家に闖入して勝手に横で眠った上に、起きたと思ったら今度は家主を放って取っ組み合いとは。
実にいい度胸をしている。

忠矢
忠矢
キミたち。

コロネ
コロネ
お前はいっぺん、ぶっ飛ばす!

クオン
クオン
やれるものならやってみろ!

忠矢
忠矢
すいません、話を聞いてほしいんですが…………。

コイツら、聞く耳をまったく持ってない。

オレを無視して2人の取っ組み合いが続いている。
超スピードの。

クオン
クオン
これはどうだ!
上をとったぞ!

コロネ
コロネ
なんの!
左腕が死んでいるぞ!

クオン
クオン
そいつはおとりだ!

クオンが鎧の重さを活かしてマウントを取ったかと思えば、コロネはすかさずその勢いを逆利用して関節を決めようとする。めまぐるしいグラウンド上の攻防である。異様に技術レベルが高い。

これが格闘技の試合であればオレは拍手喝采を惜しまなかったことだろう。
しかし試合会場がオレの部屋、というのは勘弁願いたい。

とにかくこのケンカを止めなければ。

でも、こういう時はどうすればいいんだっけ?

オレが2人の間に割って入るのはまずい。あの馬鹿力だ。軽く弾き飛ばされるか圧殺されるのがオチだろう。
そもそも攻防の展開が速すぎて割って入るタイミングがまるで見つからない。

忠矢
忠矢
こんなの、どうしろって言うんだ…………。

2人の取っ組み合いを見ていて思いついた。

これはキャットファイトだ。
つまり、こいつらはネコだ。
これはネコのケンカだ。

ネコのケンカを止めるにはどうすればいい?

おあつらえむきのものがあった。

オレは枕元のペットボトルを手に取った。

そして、取っ組み合いを続ける2人の少女の上から静かに水を注ぎ込む。

忠矢
忠矢
この野郎、好き勝手してくれやがって。

チョロチョロチョロチョロ。

コロネ
コロネ
ヒャッ!

クオン
クオン
ヒンッ!

オレは水のように冷めた表情で水を注んだ。

文字通り水を差された格好で、瞬時に2人のケンカは収まった。

だが水を注ぐのはやめない。

ペットボトルの水が半分になる頃には、オレはコイツらが何者なのかすっかり思い出していた。

そして、10年前、オレが何者だったのかも。

2人のケンカは止まったがペットボトルの水はまだ残っている。
せっかくだから全部出し切ってしまおう。
ちなみに、ペットボトルは500mlではない。1リットルの大ボリュームのやつである。冷蔵庫にさっきまで入れていたのでキンキンに冷えている。

ドボドボドボドボ。

あ、なんかちょっと楽しくなってきた。

コロネ
コロネ
ちょっ、やめっ!
忠矢、なにをするっ!やめやめっ!

クオン
クオン
つ、冷たいですっ!
やめてください!勇者様!

コロネ
コロネ
こんなの、勇者のすることじゃねえぞ!
勇者?

そうだ。

勇者だ。

かつてオレは、世界を救った勇者だったんだ。

ドボドボドボドボ。