ストーリー

[ストーリー第1話] 異世界からの訪問者 (1)

忠矢
忠矢
今から少し前。
コロネとクオンがうちにやってきた話だ。
思えば、ここからオレの苦労が始まった……。

いつもと変わらぬ朝。
オレは目をさました。
ゆっくりと身体を起こし、軽く伸びをする。

忠矢
忠矢
ふあぁあ……。もう朝か。

忠矢
忠矢
…………………………。
ん?

少々違和感があり、目を下にやった。
隣で何者かが2人、眠っている。

右手側には、小柄で、妙に肌面積の多い少女。申し訳程度に、胸と腰に衣服をまとっている。
左手側には、腕と脚にゴツゴツとした金属片を身につけた少女。これは、鎧だろうか。
2人とも、あどけなく、幸せそうな表情でしずかに寝息をたてている。

忠矢
忠矢
この前奮発してキングサイズのベッドを買ってよかった。
3人川の字にならんで寝てもまだ余裕があるな。

違う。
そんなことを考えてる場合じゃない。
まだ寝ぼけているのか、思考回路がまともに働いていないようだ。

忠矢
忠矢
いったいだれなんだ、コイツらは。

見たこともない美少女が、脈絡もなく自分の隣で寝ている。それも2人も。

こんなことが現実に起こりうるか?

答えはもちろん NO、だ。

そう考えて、これは夢だと気づいた。

なるほど、オレは夢を見ているらしい。
それなら美少女が隣に寝ていることくらい、特に驚くようなことでもない。

古典的な夢の確認方法であるが、ほっぺたをつねってみた。

忠矢
忠矢
痛い…………。
鈍い痛みがほほを走った。

夢ではなく、これは現実なのか?

いや、まだ現実と決まったわけではない。
夢の方も、ほほつねるなんて古い手は百も承知で対策済みかもしれない。

ならば。

目をはっきり覚ますために、朝の日課をこなしてみた。

部屋の冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、ゴクリとひと口飲む。

部屋を出て、階段を降り、1階にあるトイレに入る。

トイレをすませたら、洗面所で顔を洗って、歯を磨く。

オレの毎朝の決まりきった行動。
いつもならこれですっきり目が覚める。

そして今日も目が覚めた。頭も冴えてきた。

忠矢
忠矢
今日も一日、がんばるぞい!
思わず妙なひとりごとが出てしまった。

さあ、普段と変わらぬ、平凡な1日の始まりだ。

バリバリ仕事をして、うまいものを食って、寝る。

今日もそんな1日になるはずだ。

あの2人の美少女も夢からさめたように消えているだろう。

確認するまでもない。

確認するまでもないんだけど、念のため部屋を見ておこうかな。

オレは階段を昇り、部屋のドアノブに手をかけた。

静かに、ゆっくりとドアを押し開いていく。

ドアが半分ほど開いたところで、音をたてないよう恐る恐る部屋の中に足をふみいれた。

ベッドの上を見るのが怖い。

見るのは怖いが、そのために部屋に戻ってきたのだ。

意を決して部屋の中央に鎮座する、ベッドに目をやる。


忠矢
忠矢
うん、美少女が2人、寝ているね。
はっはっは。こりゃ傑作。
なにが傑作、だ。

どうやらオレは平常心を失っているらしい。

OK、いったんおちつこう。

夢ではないが、現実でもないということがある。

今はVRってやつがある。VR、つまりはヴァーチャルリアリティ。

最近のVR技術の進歩はすさまじいからな。美少女を2人、目の前に映し出すなんて造作もないにちがいない。

そう、VRだ。これはVRにちがいない。

忠矢
忠矢
VRゴーグルをつけっぱなしにしていたかな?
オレは目のあたりをペタペタと触ってみた。

指にふれたのは自分の目と鼻ばかりだった。

オレはつい今しがた顔をあらったばかりじゃないか。VRゴーグルなんてつけているはずがない。

いや、そもそもオレはVR機器を1台ももっていなかった。

忠矢
忠矢
これは、現実か。
そう、現実だ。正真正銘の。これはもう、認めざるをえない。

美少女が2人、オレの部屋の、オレのベッドの上で眠っている。

信じがたいが、これはたしかな現実なのだ。

これが現実であるとなると、非常にマズい。

美少女2人が目を覚ます。驚き叫ぶ。警察に通報される。警官かけつける。オレ、逮捕される。

こういう展開になるのが容易に想像できる。

オレは誓ってなにもしていない。2人には指一本触れちゃいない。清廉潔白だ。

しかし、この状況では疑われてしまった時点でおわりだろう。
納得できる申し開きをできる自信はない。

つまり、通報、即、死。

どうやらオレの人生は今日終わるようだ。

忠矢
忠矢
この家に引っ越してきてわずか1ヶ月か。
短い平穏な日々だった……。
オレが未来に絶望して呆然と突っ立っていると、2人の美少女のうちの半裸のほうがもそもそと動き出した。
目を覚ましたらしい。

「半裸のほう」っていう呼び方もどうかと思うが、今はそれ以外に呼びようがない。だって、半裸だし。

コロネ
コロネ
ふあああああ……。
半裸の少女は大きく伸びをした。
まだ少し寝ぼけているのか、目をパチクリさせている。

金色の瞳がまばたきするたびにキラキラと輝く。愛嬌のある顔立ちでじつにかわいらしい。クセが強いやや紫がかった髪をラフなツインテールにまとめ、いかにも快活でエネルギーにみちあふれていそうな雰囲気がある。

半裸の少女は視界が開けてきたのか、徐々にオレのほうに目の焦点が合っていく。
どうやらオレの存在に気づいたようだ。

半裸の少女は一瞬ぽかんとした。
そして、みるみる表情を変える。

ああ、叫ばれる。
叫ばれて、警察を呼ばれるんだ。
こんにちは、おまわりさん。
さようなら、平凡な日々。
執行猶予はつきますか?

しかし、少女の反応はオレの予想とは違ったものだった。
恐怖に歪んだ顔ではなく、太陽のようにまばゆく輝く笑顔。
まるでずっと会いたかった人に会えたときのような

コロネ
コロネ
ちゅうやああああああ!!!!!

忠矢
忠矢
どわあああああ!!
半裸の少女が全開の笑顔で、オレに抱きついてきた。
勢い余って2人ともそのまま床に倒れこんだ。

半裸の少女は「ちゅうや!ちゅうや!ちゅうや!」と何回も繰り返しながら、オレを抱きしめている。
こんな美少女とハグできるなんて、なんという幸福……。暖かい。柔らかい。甘い香りがする。

いや、喜んでいる場合じゃない。

この少女、小柄なわりに力が強い。いや強いどころか、すさまじい馬鹿力と言っていい。とんでもない抱擁力だ。

オレの肋骨がミシミシと悲鳴をあげ、全身の血流が阻害されるのを感じる。肺が圧迫され、息が吸えない。

さすがに危険を感じて、引き剥がそうと身体をもがいてみたが、少女の腕は微動だにしない。

意識が少し朦朧としてきた。

半裸の少女は相変わらず「ちゅうや!ちゅうや!ちゅうや!」と繰り返し、オレを抱きしめるのをやめない。

急速に目の前が暗くなっていく。

「ちゅうや」

半裸の少女が繰り返している言葉。

忠矢。

国定忠矢。

それは、オレの名前だ。

でも、この子はなんでオレの名前を知ってるのだろう?
オレはこの子を知っていたっけ?

薄れゆく意識の中で、オレはそんなことを考えていた。